ILAC

世代を超えて、能登で受け継がれる豊かな食

石川県の食文化を重視した商品開発


インスタントラーメンやレトルトカレーに並ぶ、戦後の食品の三大発明の一つ「カニカマ」を世界で初めて開発した株式会社スギヨ。今回は四代目である代表取締役社長 杉野哲也さんにお話を伺いました。カニカマの始まりは意外にも、他商品の試作品の失敗から生まれたものだそうです。

「スギヨはもともとちくわなどの練り製品を作る会社でした。カニカマの開発は中国からクラゲの輸入がストップしたことをきっかけに、先代が人工クラゲを作って欲しいという依頼を受けた事からスタートしました。昆布からとれるアルギン酸を使って人工クラゲを作ったのですが、醤油に入れると柔らかくなってしまってダメだったのです。せっかくなので従業員が刻んで食べたところ『これはカニの食感に似てる!』という発見がありました。しかし、見た目が透明なため、牛乳を入れて白くし、刻んで魚のすり身で包み、型で押してお土産として売り始めたのがカニカマの原点です。」

その後、量産化する為にすり身を使用し、現在のカニカマに進化したそうです。失敗作から生まれた小さな発見が、大きな進化を遂げ、今では世界中に広まっています。

「もとより石川県にはカニを食べる文化がありました。シーズンになると漁でズワイガニを獲ってくるのですが、高く売れるのはオスだけなのです。小ぶりのメスは名前を『香箱ガニ』に変え、地元で安く流通しました。子どもがおやつにカニを食べるなんていうのは、石川県ではよく見かける風景でしたね。そして、シーズンの11月頃になると、私は研究室のスタッフに好きなだけカニを食べてくれと言いました。まずは味を知り、それを超えることを目標としました。研究を重ね出来上がった香り箱は、まさにスタッフの努力の結晶でしたね。」
ズワイカニの脚肉をイメージし、形状、食感、味、色合い、ジューシー感を再現した商品「香り箱」は本物を超えたカニカマと呼ばれ、第45回農林水産祭最高賞の天皇杯を受賞し、一躍その名を世界に知らしめます。



企業がおこなう能登農業


「スギヨの歴史で言えば、練り製品の事業はまだ短いです。大正時代までは定置網や巻き網といった水産分野をやっていましたし、ちくわの製造をスタートした時も生魚を扱う割合が大きかったです。ですので一次産業に対する理解度は高いですよ。あまりイメージが無いかもしれませんが、農業に対する取り組みも重要視しています。
農業は一年にワンチャンスです。収穫時の出来によってしか来年の改善点を見つけることができず、改善を行っても環境によってまた変化します。その土地にあった農作物をより良いものとする為に、何世代にも渡って継承されてきた技術があってこその、今の野菜なのです。
しかし、能登の農業の担い手の高齢化に伴い80代の方の技術を60代へ伝承している現在、次の担い手がいなくなるギリギリの所に来ています。それであれば企業が農業を行い、その技術を伝承していこう。若い人たちが安心して生活できるような定住の基盤になれないかと考え、農業生産法人「スギヨファーム」を設立し、さらに収穫した野菜を活かせる商品開発をおこなっています。」
七尾市の能登島に26ha、穴水町に18ha、志賀町に16haの農地を借り受けているスギヨファーム。能登島の26haの農地においては、半分以上が耕作放棄地を開墾し直して再生した土地とのこと。スギヨの農業参入は世界農業遺産に認定されている「能登の里山里海を保全する」という重要な役割も担っています。



スギヨファームの能登野菜のドレッシング。にんじん、大根、玉ねぎなどの種類がある。



世界に求められる本物を超えたカニカマ


欧米(主にフランス)ではカニカマはSURIMI(スリミ)と呼ばれ現地でも生産されており、日本のカニカマとは違い1kg~2kgサイズの商品がスーパーで売られています。それもそのはず、海外では日本の約7倍ほどの消費量がありパスタやパンケーキに入れるなど食シーンが圧倒的に多いのです。現地生産は価格も安く、新規参入が難しかったようですが、近年スギヨ商品の需要が伸びているそうです。
「40年前にアメリカにも輸出を始め、間も無くヨーロッパにも進出しました。しかし貿易上さまざまな問題があり、日本のカニカマをそのまま外国で販売するのは困難だったのです。試行錯誤の結果、アメリカの材料でアメリカで作ったものであれば輸出できるようになりました。しかしヨーロッパでは『カニカマは安いものだ』という固定概念が根強く、安価で販売する現地生産に押されていました。ここで追い風になったのが世界的な『和食ブーム』です。良いものが求められる時代となり、現地にスギヨのカニカマを持って行き試食してもらうと、現地商品との味の違いに驚愕していただけます。今後は現地に工場を作り、現地の雇用を生みながら、現地に愛される商品開発ができたらと思います。」
『本物を超えたもの』を追求し続けたからこそ、スギヨが世界に必要とされる時代が追いついて来たようです。満足する事なく、移り変わる食の多様性にも目を配りながら、消費者の味覚をつかむスギヨの挑戦。まだまだ新しいステージが続きそうです。


この記事が気に入ったらいいね!
送信する