早朝から活気づく市場からおいしい野菜を県内全域へ
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コロナ禍を境に金沢へのUターンを決意
午前4時、金沢中央卸売市場――。夜の帳が街全体を静かに包み込む中、この一角だけはこうこうと明かりが灯っています。場内にはひっきりなしに人が行き交い、交わされる商談や元気な笑い声があちこちから聞こえてきます。多くの人がまだ眠りに就く早朝、間違いなく石川県内で最も活気あふれるこの場所で、懸命に汗を流す一人が柿良青果の石坂佳樹さんです。柿良青果は1966年、金沢中央卸売市場の開場と同じ年に第一歩を踏み出した仲卸会社で、加賀野菜や能登野菜といった地元産をはじめ、全国から集まる旬の野菜や果物を買い付け、スーパーマーケットや小売店に販売しています。石坂さんは同社商事部に所属し、市場に足を運んだ小売店の顧客から注文を受け、商品を配送トラックに積み込む仕事をしています。入社は2021年2月。金沢市出身で、地元の高校を卒業し、県内の建設会社を経て一度は就職で東京に出ました。「Uターンを決意した理由は、新型コロナウィルス感染症の感染拡大が大きかったですね。イベント会社で設営などを手がけていたのですが、コロナ禍で一気に仕事がなくなりました。結婚し子どもも産まれたばかりで、先行きへの不透明感から地元に戻ろうと思いました」
石坂さんはこう話し、ILACに相談を持ちかけたところ、紹介されたのが柿良青果。未経験でも挑戦でき、風通しのいい明るい社風にもひかれ、同社への入社を決めました。
家族で過ごす時間もゆったりと
柿良青果では、担当する業務に応じて働く時間帯が異なるため、勤務形態は各自が自由に設定できるフレックスタイム制を導入しています。石坂さんの場合、午前2時に出社し、休憩を挟みながら7時ごろまでは接客、その後はパソコンで事務作業を行い、昼過ぎに帰路につく日が多いのだとか。「入社間もないころは、遅れそうになったことも・・・」と頭をかく石坂さんですが、仕事に慣れるにしたがって、早朝からの勤務形態のメリットも感じています。
「家に帰ってもまだ日は高く、子どもと公園に出かけたり、一緒にお風呂に入ったりと、家族でゆったりと過ごせます」と石坂さん。かわいいお子さんと触れ合う時間が何よりの楽しみになっています。
さらに、多種多様な作物の商品知識など、覚えることは極めて多く、1、2年の経験ではまだまだとのことですが、「その分、やりがいも大きい仕事です」。同社の佐々木星常務はこう話し、「しかも、社員が自分のスキルを存分に発揮できる点も当社の魅力です。キュウリやトマト、キノコ類など作物ごとに担当がおり、その買い付けや流通などの裁量はそれぞれに任されています。一人ひとりが各部門の“社長”なんです」と続けます。
同社の勤続年数の平均は17年。実際に働くことでやりがいや職場環境の良さを実感でき、長年にわたって勤務する社員が多いのですが、採用に関してはその魅力がなかなか伝わらず、難しさを感じていたそうです。業界内では知らない人のいない会社であっても、店頭に社名の出ない仲卸業ということもあり、一般の人たちへの認知度不足も苦戦の要因となっていました。
そこで、次代を担う人材確保に向けて同社が相談に訪れたのがILACでした。2019年からUIターン合同企業説明会に出展し、ILACが制作した企業紹介動画にも登場。「WEB合同企業説明会では、不慣れなオンラインの設定などもサポートしてくれてとても助かりました」と佐々木常務。さまざまな角度からの積極的な採用活動を通して、20代の石坂さんとのマッチングに成功しました。
「明るく、楽しく、元気よく」がモットー
若手の入社で、社内にも変化が表れているようです。「当社で20代は彼だけ。市場全体を見渡しても年齢層が上がっていて、若い石坂くんの周りには自然と人が集まってきます」と佐々木常務。事務所では石坂さんとデスクを並べており、「表計算ソフトの使い方など、パソコンに関しては教えてもらうことが多いですね」と笑います。
石坂さんもやりがいある仕事に夢中になっています。「今はまだ大先輩の下でお手伝いのような状態ですが、もっともっと商品知識を身につけ、いつかは僕を訪ねて足を運んでくれるお客様を増やしたいです。ゆくゆくはフルーツなどの新しい商品についても取り扱ってみたい」と意欲満々です。
同社では2021年、金沢市大野町のヤマト醤油味噌様とコラボし、自社開発商品の第1弾となる「金沢産たけのこごはんの素」の販売を開始。現在も第2弾となる自社ブランドの商品化に余念がなく、新規事業にも積極的に乗り出していく考えです。
「知識ゼロでも構いません。当社は『明るく、楽しく、元気よく』がモットー。興味を持って学び続けてくれる方を求めています」と佐々木常務。10年先、20年先の柿良青果を見据え、次代を担う人材の確保・育成に向けてアクセルを強く踏み込んでいます。