多彩なスキルを生かし、魅力ある“おいしい”を全国へ
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催事を彩る店舗什器の制作にIターン人材が活躍
イタリアンやフレンチのレストランをはじめ、洋菓子や豆菓子など、“食”に関わる多彩な商品を取り扱っている「ぶどうの木」。金沢市岩出町の本店は、社名の通り、さまざまな品種のブドウの木が敷地内を彩り、石川県民にとってはなじみ深いお店と言えます。数ある人気商品の中でも近年のヒットといえば、型ぬきバウムです。東京・銀座に構える直営店やオンラインショップ「カタヌキヤ」などで販売しており、丁寧に焼き重ねた平焼きバウムクーヘンには愛らしいパンダや猫などが描かれ、イラストに合わせて型ぬきしながら味わえます。おいしく、楽しいスイーツは若い女性を中心に話題を呼び、2022年のバレンタインに合わせ、駅やデパートなど全国24カ所で開いたポップアップストアも多くの人でにぎわいました。
※過去の催事写真となります。
その際、催事会場を華やかに飾るパネルなどの店舗什器を制作したのが、21年11月に同社企画広報部デザインチームにIターン就職した小川紘右さんです。小川さんは愛知県春日井市・小牧市で生まれ育ち、高校卒業後にデザインを学ぶために東京の専門学校に進学。社会人となってからは、グラフィックデザインやイベント関連の什器制作を手がけてきたそうです。そんな小川さんが、石川県へのIターンを考えたきっかけは、金沢に実家のある奥様との間にお子さんが生まれたことでした。「15年以上も東京で暮らしていましたから、新しい土地での再出発に正直、迷いはありました。ただ、これからを考えた時、妻の両親が暮らし、自然に恵まれた石川県で子育てをしたいとの気持ちが強くなっていきました」(小川さん)家族そろって安心して育児ができる環境が、小川さんに移住を決意させました。
採用は肌感覚が合うかどうかに重点
一方で、企業側が県外に広く人材を求めた理由は何だったのでしょうか。その背景には、新卒を中心に募集してきたぶどうの木が、近年採用活動に難しさを感じていたことが挙げられます。ネックとなったのは、休日などの福利厚生面です。レストランや販売店では、週末や祝日などの勤務がどうしても多くなってしまいます。トータルの年間休日数は他の業界と遜色なく、人出の少ない平日に出かけられるなどメリットも多いものの、休日に関する条件面から敬遠されるケースが増えていたそうです。
「当社の採用も、どちらかといえば、働きたい人が手を上げるのを待つ、受け身的な側面があったかもしれません。その反省から積極的な採用に乗り出すことにしたのです」
こう語るのは、同社の採用活動を担当する総務部部長の加藤髙聖さんです。その一環として、県外にも売り込んでいく姿勢を強め、2020年からILACが主催する「いしかわUIターンWEB合同企業説明会」に参加しました。
ぶどうの木では、新卒・中途採用ともに筆記試験はなく、面接だけで進めています。「求職者と企業が話を進める中で、お互いに最適なマッチングになるかどうかを見極めます。『絶対にこういう人材がほしい』とこちら側から間口を狭めることはなく、対話を重ねながらすり合わせていくイメージです」(加藤さん)お互いの肌感覚を大切にした採用は、求職者にとっても安心につながっているようです。小川さんも、「私も最初からフード業界で探していたわけではありません。加藤部長と話す中で少しずつぶどうの木の仕事や働き方に興味を覚え、新しい業界に飛び込んでみたいと思いました」と振り返ります。
子どもと一緒に石川暮らしを楽しみたい
入社してから半年あまり、クリスマスやバレンタインなどのイベントごとが目白押しで、フル稼働が続いたという小川さん。「まだまだ余裕はなく、がむしゃらに働いている状態です。それでも手がけたポップアップストアの売り上げが上がると充実感があります。手応えをじかに感じられるのは、自社で製造や販促、販売などを全て手がけているからこそですね」と話し、充実した表情を浮かべます。雪道の車の運転はまだドキドキするとのことですが、海も山も身近な石川での生活にも徐々に慣れてきました。「ぶどうの木では地域活性化に力を注ぎ、耕作放棄地を活用した農園『ラシェット』も整備しています。農業体験も予定されているので、いつかは子どもと一緒に参加したいですね」と笑顔を見せる小川さん。
加藤さんも、「ぶどうの木では、社員のアイデアを反映していく土壌があります。どんどん小川バージョンの提案をしてほしい」と、一層の成長に期待を寄せています。もちろん、同社では今後も、積極的な採用活動に力を入れていく考えです。「冷凍食品の新ブランドを立ち上げる予定で、ほかにもさまざまなプランを計画しています。製造・販売だけでなく、商品開発やマーケティング、流通などさまざまな分野で人材が必要です」と加藤さん。ぶどうの木では、さまざまな分野のプロフェッショナルが力を発揮しながら、“おいしさ”をカタチにしていく挑戦が、今後ますます熱を帯びていきそうです。