『発見・創造・実践』地域再生の空間プロデュース
金沢21世紀美術館がきっかけの二重拠点生活
有限会社E.N.N.代表であり、株式会社嗜季の代表、創作和食店「a.k.a.」を開業、建築設計チーム「studio KOZ.」初の地方版R不動産「金沢R不動産」を始動させ、八百萬のヒト・モノ・コトが集う開かれた町家「八百萬本舗」や一棟貸しの町家の宿「橋端家」の運営など、多岐にわたる活動を行なっている小津誠一さん。
石川県金沢市で生まれ、武蔵野美術大学にて建築を学び、卒業後はそのまま東京で働き始めました。当初は金沢があまり好きでもなく、年に一度も帰省しないこともあったそうです。そんな小津さんが金沢に目を向け始めたのは21世紀美術館が建設されるらしいという噂からでした。
「広告代理店で働いたり、建築事務所で働いたり、京都の大学で教鞭をとったり、バブルの崩壊や阪神大震災などもあり、なかなか波乱万丈でした。京都の大学で7年ほど働き、大学で研究したいことも出てきたが、それも叶わないことを悟り、2001年に東京に戻りました。実はこの頃、建築設計と同じくらい『自分で飲食店をやりたい』という思いがあり、密かに計画していました。
東京に戻ってからほどなくして、知人から『金沢21世紀美術館という施設ができるらしい。カフェは一般公募で立候補の声をかけられたから手伝って欲しい』と相談を受けました。企画書提出までの期間は一ヶ月ほどしかなく、プロジェクトチームとして8人のメンバーを集め、NPO団体を結成し、短期決戦に気合を入れて挑みました。残念ながらコンペには負けてしまいましたが、これが私の中で大きなきっかけだったのです。
『これから金沢は面白くなる。これを機会に行動を起こせば街が変わるチャンス』と直感したのです。
まずは金沢での活動拠点を作ろうと考えていた頃、企画書の影響でイベントのプロデュースの依頼がありました。1年目は約4,000人、2年目は約8,000人を集客でき大成功をおさめることができました。そして企画書の影響は他にもあり、金沢の廃墟ビル再生のお話でした。このまたとないチャンスに、1階に念願だった自分たちの創作和食店『a.k.a.』を出店し、同ビルに拠点として有限会社E.N.N.を設立し、東京と金沢の二重拠点生活を本格的にスタートさせたのです。」
金沢の廃墟ビル再生
2004年に開業したa.k.a.(現在は橋場町のシェアホテルHATCHiに移転している)
増えていく金沢の魅力と東日本大震災
「2003年に友人が東京R不動産というセレクトサイトを立ち上げたのですが、世間にリノベーションブームの風が吹き、瞬く間にモンスターサイトになりました。東京の次は、自分でぜひR不動産の金沢版をやりたいと思い、2007年頭に金沢R不動産をスタートさせました。それ以来、月の半分近くを金沢で過ごすようになり、金沢でリノベーションや飲食店設計の話などもいただくようになっていきました。東京では、金沢では比べようも無い狭小住宅の設計やデザイン監修といった消費に荷担するような仕事が多かったのですが、地方では予算こそ少ないものの、地域の核になるような施設を設計できたりするので、地方ならではの面白味を感じていました。
順調に二重拠点生活を続けていたのですが2011年3月11日、僕が金沢にいる時に東日本大震災が起こりました。4日間東京に帰れない事態となり電話も繋がらなかったのですが、なんとかfacebookを通じて連絡が取れ、自分の奥さんや東京スタッフの無事が確認できました。ようやく行けるようになった東京は真っ暗で、ネオンサインや照明演出に頼った建物の貧弱さを感じました。コンビニが機能しないと何もできない脆弱さ、殺伐とした人々を眺めて、東京の魅力は半減しました。
その後半年間往復を続け、東京のスタッフを新宿の焼き鳥屋に誘い、『金沢に移転するとしたらどう?』と聞いてみたところ『今はその時代です』と、驚くほどスムーズに了承を得られ、2012年に金沢へ移住することになりました。」
金沢を本拠地にした活動開始
「不動産も飲食も動いていましたが、食べて行けるかの不安は正直ありました。でも、実際住んでみるとその不安はすぐに消えましたね。移住して最初に実感したことは『半よそ者感』が消えた事です。東京から通うのではなく、金沢に腰を据えた途端に様々な声がかかり、活動につながる出会いが今まで以上にありました。人との繋がり方が、東京とは違います。50万人以下の街なので『友達の友達は友達』といった具合に広がっていきます。そして、一見繋がりのないことでも、金沢では街、空き家、観光、あらゆることが関係し合っているのです。一般的に街を知るきっかけとして、まず『観光』でその街の光だけを見ます。次に『旅』で観光とは違う目的を持って訪れます。そして『試住』『複住』最後に『移住・定住』というステージがやってくると思うのです。私はこの『旅』と『試住』『複住』をサポートすることが重要と考え、仕事や人の良さを薦める、住むためのガイドブック作成など、地方創生に全て繋げていきたいと考えます。まさにR不動産はハード(住宅や建物)を売る仕事ですが、情報を発信するところにはソフト(まちの情報)も日夜集まってきます。そこで、イベントや人、その街の事を紹介、金沢での仕事のマッチング、不動産紹介、ビジネスサポートもするなど、移住をサポートする情報発信サイトとして「real local」を始めました。
昔は二時間ドラマの舞台としての印象が強かった石川県ですが、兼六園の入場者を金沢21世紀美術館が上回り、都会から年に1.2回文化を観に来てくれる土地へと変わりました。金沢は奥の深さが健在して生きていますし、それに気づいた人は金沢を選びます。都市としての基礎体力も十分にあるので食べ物、四季、子育て環境としては申し分ありません。
都会は刺激もあるし楽しい所ですが、一歩間違えると消費者になり溺れます。仕事は自分で作るもの。地方では自分で働きかけて作っていきます。それができる環境であり、地方はそれを求めています。仕組みができていないので幅が広がり作っていける、金沢はまさに『これから』の街です。」
個性的な仕事をする人の拠点としての良さもありつつ、都会での満員電車や人間関係のストレスに悩むサラリーマンにとってもオススメできる金沢。まずは観光から、そしてR不動産やreal localのサイトを覗いてみることが、人生を輝かせる一歩になるかもしれません。