トップ 移住者インタビュー 今も昔も「やさしさ」を極めた旅館「まつさき」

2018.09.10
能美市

今も昔も「やさしさ」を極めた旅館「まつさき」

時代とともに成長していく旅館

能美市にある辰口温泉は、明治時代は9軒あった旅館も今では3軒となりました。その中の1軒が旅館「まつさき」です。

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辰口温泉は奈良時代に開湯し、今もなお続いている名湯です。石川で有名な暴れ川「手取川」の大雨による洪水で、源泉が一時埋没してしまったものの、江戸時代天保7年にまつさきの初代と来丸の源助が新たに源泉を掘り当てて、「まつさき」を創業し、今年で180年。なんと、先の開湯から数えると1400年の歴史です。湯は、弱アルカリで、昔からやけどや皮膚病、アトピーに効くと言われています。源泉はぬるめですが、ゆっくり湯に入れて、後からポカポカします。また、ぬるめの源泉と加温したお湯を交互に入ることで、疲れも一層とれやすくなるとのこと。

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温泉の敷地は広大。敷地に池を掘り、庭を築いた方、まちの町長になり能美を守るために努力を重ねた方、代々の先代から受け継がれ、現当主の松﨑陽充(あきみつ)さんと、女将の松﨑富志永(としえ)さんで6代目となります。

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途中、旅館が金沢市から見えるくらい大きな火事に見舞われましたが、現在の当主の代で新館もつくり、全室、客室内風呂と露天風呂付きの部屋にしました。内風呂を入って温まってから、露天風呂へ。そして、客室にひいているのは温泉で、お客さまへの配慮もかかせません。
時代も見据えて、お客さまの声にも応えて――今まで繰り返し行い、旅館を守ってきたのです。

「やさしさ」を感じる宿

宿では、お客さまのお出迎えからお見送りまで、1人(係)が担当します。「旅館は唯一日本文化を継承している」と考え、着物姿でのお迎え、食事も「日本食」「だし」、そして、「地産地消」にこだわっています。
日本を大事に、地元を大事に、そして、昔ながらのおもてなしを大切にしています。

また、まつさきでは、お客さまの要望に応えられるように、数多くのプランを用意しています。子ども連れのお客さまが心地よくいられるように、自分たちが子どもを持ったことで気が付いたことを宿に取り入れ、子どもたちに優しい宿もめざしています。例えば、おもちゃをたくさん用意する、お昼寝布団を最初からつける、離乳食の準備や、部屋のトイレにはオムツバケツをセットして、係りには「お子様を大事にしてあげて」と伝え、気配りを忘れません。食事は、子どもたちにも日本食の魅力を伝えられるように、想いを込めて作ります。

お客さまの中には、お子さんが離乳食の時期からずっと通っていただけており、今では高校生、長いお付き合いが続いています。そうして、通ってくださることが嬉しい出来事で、旅館業は「人」との出会いに尽きるといったところです。長くお客さまが通われるのは、何年経っても同じ接客係が担当してくれるためかもしれません。まつさきが思い出の場所で、心地よい場所になるから続く関係なのです。浴衣は、はだけやすいので、浴衣の生地で作務衣に作り替えるなど、まつさきは、従業員の「工夫」と「やさしさ」で出てきている旅館だと実感できます。

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旅館業に関わる人に必要なのは、「ハートフル」であること

昨年、新幹線の影響から、金沢市から1番近い旅館として、いつもの年より多くのお客さまが来られたのですが、今年は少々ダウン。忙しくて人手が全く足りない時や、働きたくてもお客さまにお越しいただけない時など、今までにいろいろな波もあり、営業に奔走しながら今日まで走り続けてきました。

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まつさきが今求めている人材は、「体力があってハートのある人」。全ての基本が「ハートフル」で、温かい心のある人は、お客さまとも良い関係を築けます。気持ちを汲み、一生懸命におもてなしをすると、必ず「また来ますね!」というお声掛けをいただきます。この一言で、疲れが吹き飛び、嬉しく幸せな気分になれるので、「また頑張ろう!」と、やりがいを持つことができ、仕事の上で良い循環となっていきます。

「お客さまの立場に立ったときに、1人の客室係が自分のお出迎えからお見送りまでに関わってくださったらやはり嬉しいと思うので、今のスタイルなのです。」と女将さん。お客さま第一なように見えて、従業員への配慮もかかせません。毎日の仕事がしやすいように、従業員の着物を工夫したり、閑散期には長期で休むことも取り入れたり、何より、女将のお声掛けで元気が出ること間違いなしです。

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明治の文豪、泉鏡花も愛し、現在では将棋のタイトル戦も行われることもある「まつさき」――多くの人が愛すこの旅館は、「やさしさ」で溢れ、みんなが温かい時間を送れる旅館でした。

1度働かないと旅館業の良さは分からない――「旅館業は、人の役に立つことが実感でき、約30年があっという間に経ちました。」と言った女将の言葉から、日々、お客さまのことを想い、走り抜けてきた、爽快感を感じずにはいられませんでした。

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