石川で最先端の研究を!心地良い環境を得て、目指すその先の夢
研究者のための研究所「いしかわサイエンスパーク」
石川県を「日本のサイエンスの拠点に」と、1990年石川県能美市につくられた「いしかわサイエンスパーク」という場所があります。ここは、日本で初めて設立された国立の独立大学院である「北陸先端科学技術大学院大学(以下JAIST)」と「民間企業」そして、「国立研究開発法人情報通信研究機構(以下NICT)北陸StarBED技術センター」が連携しながら、日本の最先端の研究を支えている場所です。
今回お話を伺った、湯村翼さんが所属しているNICTのセンターには、1000台を超えるサーバーがあり、世の中に情報機器などを発売する前に企業が仮想的なインターネット環境につないで試験を行ったり、大学の研究者たちが研究をするための場所です。この環境は世界トップクラスで、日本ではサーバーがこの規模で設置されているのはこの場所くらいとか。
また、他にはない特徴が2つ。センターには併設して家が建っていて、この家ではホームネットワークにつながる家電の実験を一般家庭と同様の環境で行えるそうです。また、世の中にはAmazon Web Servicesなどのクラウドサービスで大規模サーバーが使える環境がありますが、クラウドのサービスは、仮想化された環境で行うため、どの機械を使って実験・研究したかということが分からないのです。このセンターでは、それが可能になる設備が整っていて、研究者にとって実験・研究に適した環境、まさに“研究者のための研究所”なのです。
身近な研究者
NICTは、全国にたくさんの拠点があり、無線・光ネットワーク・宇宙通信・脳科学・サイバーセキュリティなど、情報通信に関する分野の研究は全てを行っているといっても過言ではありません。そして、石川県を拠点として大規模サーバーを運用するための技術・ネットワークの研究をしているのが、湯村翼さんです。
湯村さんは、JAISTにも社会人博士として通いながら、仕事としても研究をしています。まさに研究漬けの毎日。だけど、湯村さんを見ていると、それがなんだかそうにも見えないのが不思議なところ。たぶん日々研究をして疲れているはずなのですが、なんだかすごく楽しそうなのです。
最近、朝の情報番組で、湯村さんの開発した文字を撃ち出すプロジェクションマッピングキーボードが放送されました。文字を打つと、文字が可視化されるというキーボードで、改良してtwitterに投稿したら情報番組から連絡が来たそうです。これに限らず、人生は偶然の“出会い”が多い、と湯村さんは言います。大学では宇宙について学び、修士ではJAXAで研究。その後、「就職をしたらそれなりに楽しいだろう」と家電メーカーに就職。そして、ベンチャー企業、フリーランス、起業を経て、ここNICTへ。
NICT、研究にはお金とは違う別の“長い価値”があるように感じたからと湯村さんはいいます。ベンチャー企業時代にはニコニコ学会β(今の時代に合った学会のかたちを追及するユーザー参加型学会)に出会い、「学会をみる立場ではなく、自分でも」という想いから、運営に携わり、第6回の副運営委員長やセッション座長を担当しました。ここで出会った“野性の研究”と大学や研究所の素晴らしい人々に出会えたのは、今も財産。
また、他にも宇宙ハッカソン(短期間に集中してサービスの考案やプログラム開発を行いアイディアや技能を競う催し)の「NASA Space Apps Challenge Tokyo」に参加して、その後運営側として事務局長を担当。湯村さんは、いろいろな研究を広げる活動をしていて、彼の存在が研究を身近な存在に感じさせてくれる、いわば、「身近な研究者」といった印象を受けました。
今度はどこをめざす?
人生一度きりだから、楽しみたいという想いが全面に出ている湯村さん。他にも「おうちハック同好会」という、家を便利に改造している人を集めた会を主催しています。ネットで情報交換をしながら、リアルでも定期的に集まります。そのつながりは湯村さんの大学院での研究テーマである、家電にととまらず窓や壁など家自体を制御する研究へと結びついています。
大学院のJAISTには、家電メーカー時代に仕事で知り合った先生との縁で社会人入学。JAISTのJはJapanのJで、日本を代表する研究拠点として世界中から石川に人が集まっています。湯村さんのように、約1000人の学生が、石川で研究するために集まっているそうです。研究環境や学生支援制度、留学生の支援体制も充実しており、社会人が東京で授業や研究指導を受けられる環境も整備されています。修了後の進路も、母国に帰る人や都市部の大企業に就職する人、石川に残って就職する人など様々です。
湯村さんによると、石川で暮らす魅力は、美術館などの文化に触れられる場所がとても多いこと。そして、金沢を中心として市街地と住宅地がコンパクトにまとまっているため、車があれば行きたいところへすぐに行けるところだそうです。北陸新幹線が開通してからは東京へのアクセスもとても良くなり、東京へ行く立地としても良いそうです。
最後に、自分のアンテナにひっかかると、すぐに突進する湯村さんに聞いてみました「次はどちらに?」
よく聞かれる質問のようですが、「特にこだわりはない」のだそう。自分が居心地の良い場所を自分で作り出しながら、研究の深いところに辿り着くために努力している湯村さん。世のために自分の成果を追及しながら、次はどこをめざすのか楽しみですね。次は宇宙かな?