能登発!次世代につなぐ“農業経営”
時代の先読みから生まれた「カエル印のコシヒカリ」
世界農業遺産に認定された、古き良き日本の里山里海の風景を残す能登半島。その西側に位置する羽咋市に、「カエル印のコシヒカリ」を作る杉浦謙治さんの田んぼがあります。有限会社グリーンアース杉浦の代表を務める杉浦さんは、お米を作り続けて45年。江戸時代から代々続く農家を受け継ぎ、34ヘクタールもの広大な田んぼで水稲を栽培しています。「カエル印のコシヒカリ」は、化学肥料や農薬をできる限り使わない農法で作ったブランド米で、1998年に石川県でいち早く有機JAS認定を受けました。当時、石川県で約3万戸の米農家がある中、県の有機JAS認定を受けたのは40戸程度しかなかったと言いますから、杉浦さんの取り組みがいかに斬新な試みだったのかがわかります。
杉浦さんが米作りを始めた頃、日本の農家は生産性を上げることが第一の目標とする風潮でしたが、杉浦さんは生産量重視の農業経営の在り方に、疑問を感じていました。「これからの時代は、量より質だ」こう考えた杉浦さんは、当時としては異例の減農薬・有機質肥料使用の農法を取り入れ、食と環境に優しい米作りを目指してできたのが、「カエル印のコシヒカリ」でした。
“丁寧な米作り”と“身の丈農業経営”
現在、杉浦さんは68歳。いわゆる団塊世代にあたり、日本の高度経済成長やバブル景気、失われた20年など激動の時代を生き抜く中で、農家の未来を見据えて農業法人を立ち上げ、農業経営に取り組んできました。「団塊世代ですから、仕事となったらモーレツ社員並みに働きますよ。でも経営者としては、背伸びをしない、身の丈に合った経営をするのが信条です」と杉浦さんは言います。
無理な投資や規模の拡大はしない。やみくもに生産量を増やすのではなく、食べたい人においしく食べてもらえる物を届けたい。45年という歳月の間、ひとつひとつ丁寧に積み上げながら米作りと向き合ってきた、実直な経営者の顔がうかがえます。
若い人たちにつなげたい! 豊かで楽しい農村ライフ
杉浦さんは、「農業をやる上では“人”がすごく大事。人にはそれぞれできること・役割がある。だからこそ協力しながら農業をいい方向へもっていきたい」と考えています。そのために、インターンの受け入れや求人など、いろいろな人がグリーンアース杉浦に関われるよう、積極的に受け皿になっています。インターン生は、毎年異業種から受け入れ、大阪から移住し就職した人もいます。
今後は、「脱サラして東京から帰ってきた息子さん夫婦に、徐々に経営を任せサポートに回りたい」と言う杉浦さんの目標は、
―地域の模範となるような、安定した農業経営の確立。
―モデルケースとなる農業法人に、会社を育てること。
―いろいろな人と支え合いながら、能登の魅力を届けられるように努力を重ねること。
そして、杉浦さんの願いは、若い人たちに、石川の穏やかで豊かな自然を満喫できる、農村ライフを楽しんでもらうこと。そして希望をもって農業に取り組み、日本の農業界を盛り上げてもらうこと。そのために杉浦さんは、地域で安定した農業経営を示すことが重要だと考えています。
新しいものにチャレンジすることをいとわず、常に先のことを考えていく“農業経営”は、次世代の農業への「つなぎと支え」になるのかもしれませんね。