石川県の食文化に触れ見落としていた価値を見つめ直す
- #伝統
- #食
「土地」と「時間」が生み出すもの
あなたの暮らす街には、独自の「食文化」と呼べるものがありますか?
都会の生活は今、いつでも世界中の食べ物が容易に手に入ります。その一方で、この土地ならではのものがほとんどないという寂しい現実もあります。
石川県には海山野潟から獲れる食材が豊富にあったため、保存性を高める目的で昔から「醗酵」という技術が上手に使われてきました。石川県の食文化の代表とも言える「発酵食品」には、微生物によって生み出される独特の味わいや、健康面での優れた機能があります。金沢市でもっとも古い酒蔵、株式会社福光屋の酒造りには、霊峰白山の麓より百年の歳月をかけて蔵に辿り着くという「恵みの百年水」が使われます。「創業から変わらず同じ場所で毎年毎年、百年水を使って酒を仕込んできました。」開発本部長 小林和宏さんの言葉に、酒造りの命ともいえる水へのこだわりを感じます。あらゆる製造業において効率重視、大量生産が当たり前となった今、この土地で、1年という月日が作り出す貴重な味わいに改めて魅力を感じます。
「発酵食」も今、見直されています
「発酵食品そのものは作るのに時間がかかりますが、発酵食品を使った料理は驚くほど簡単で、美味しくて体にやさしい『まあるい味』。だから近頃の忙しい都会の女性から人気があるんです。」と話す「発酵食大学」の運営を行う株式会社ウーマンスタイルの井田さん。共働きの家庭が増えるとともに、家庭料理もスピード重視、お手軽メニューが求められてきましたが、近年こうした食生活の簡便化を見直す流れも出てきています。
発酵食文化が根強く残る石川県でスタートした「発酵食大学」は、全国から受講したいという声に応えてサテライト校をオープンするなど広がりを見せています。今、発酵食の魅力、時間をかけてつくられるものへの価値が見直されているのです。昔から当然のように発酵食生活を続けてきた年配の方々は、今改めて発酵食が注目されていることに驚いているかもしれません。
一歩外へ出てあらためて気付かされること
100年余り続く株式会社ヤマト醤油味噌もまた、石川県で発酵食品をつくる企業のひとつです。代表取締役社長 山本晴一さんは4代目にしてはじめて味噌・醤油の輸出に挑戦し、新たな取引先が海外に広がりました。そして、フランスの取引先から「フランス風にアレンジしたものはいらない。君たちのつくってきた伝統的な商品に期待している。」と言われたときに、はっとしたそうです。
新しいアイディアよりも創業時から受け継いできたものを変わらぬ製法で作り続けることの大切さ、この土地で代々作ってきた味噌・醤油の魅力に改めて気づかされた出来事だったといいます。故郷を出てはじめて、「我がふるさとの魅力」に気づく…まさにその感覚かもしれません。石川県の食文化に触れ、「土地」と「時間」が生み出すすばらしい価値を見つめ直すことができました。