トップ 移住者インタビュー 教育で能登町を変えていく。 -地域の担い手を育てる「公営塾」の想い

2018.09.30
能登町

教育で能登町を変えていく。 -地域の担い手を育てる「公営塾」の想い

石川県は能登半島の北東部に位置する能登町。長年続く人口減少による過疎化と、生徒の町外流出に悩まされてきた町では、ある教育戦略をきっかけに、町内中学から町内高校への進学率を劇的に改善し続けています。なぜ、人口も、予算規模も少ない小さなまちで、このような流れを作ることができたのでしょうか。ヒントは、「まちなか」の「放課後学習」にありました。

町内唯一の高校を存続させよ

昔は3校1分校あった町内の高校が、地域の少子化の影響で平成21年にはとうとう能登高校1校になってしまいました。さらに中学生は町外の高校を受験し、その後は県外の大学へ進学するという流れができ、町内からの能登高校進学率は3割を下回る(平成25年)という衝撃的な数字となって表れました。それは能登高校の存続が危ぶまれる状況でした。

町営塾

どうか町内の高校に進学してほしい。強い願いのもと、町は平成26年、町内唯一の高校・能登高校内に、「鳳雛塾(ほうすうじゅく)」という公営塾を開きます。無料で大学受験対策や公務員講座を受講できる学習プログラムを用意することで、生徒たちの学習意欲が高まりましたが、同時にいくつかの課題が見えてきたと言います。

・夜間は学校内で学習できない
・通信環境や機材が整っていない
・開講日が少なく、毎日集中して学習できる場所がほしいという生徒からの要望があった

まちなか鳳雛塾

そこで、能登町は、平成28年度から「能登高校魅力化プロジェクト」を開始。まずは校内の「鳳雛塾」の課題を解消するために、町内にある旧公民館をリノベーションし、夜10時まで生徒たちがじっくり学べる場を作りました。それが、町営塾「まちなか鳳雛塾」です。

タブレット学習
まちなか鳳雛塾。一般的な塾とは異なり、タブレットを活用し、個々が学習アプリや動画教材で自律的に学習するスタイルを取っている。


熊野謙さん。能登で3か所の塾を展開する経営者で、現在の「まちなか鳳雛塾」の学習スタイルを構築。週1 回塾に訪れ、生徒たちを直接指導している。

また、熱心に学習する能登高校の生徒たちの姿を感じながら学んでほしいとの考えから、高校生だけでなく町内の小中学生も受け入れるように。学びの場を共有することで、小中学生が自らの数年後の姿を想像しながら学習できます。

結果、町内中学校から能登高校への進学率は年々上昇し、29%(平成28年)が52%(平成30年)へと着実に成果をあげています。

時代の流れの先へ、教育を進化/深化する

現在「まちなか鳳雛塾」の運営の中心にいるのは、プロジェクトコーディネーターの木村聡さんと山元聖也さん。

Iターンで能登町に移住してきた木村さんは、塾を通じて、子どもたちに課題と向き合う力をつけてほしいと考えています。
「教科の学習だけでなく、今自分の住んでいる町が抱える身近な問題を、”自分ごと”として捉えて、どうしたら解決できるのかを考えてほしい。課題解決力は社会に出た時に必ず求められる力だし、学習意欲をさらに高めるきっかけになるはずです」

能登町塾
木村さんは兵庫県出身。大手教育企業の社内研究所に勤めながら、石川県穴水町での農漁業体験ツアープログラムを企画・運営するNPOに参画し、能登に強い愛着を感じていたことから能登町へIターン。

「この先、大学入試の制度が変わり、学ぶことに対して主体的でなければ大学に入るのが難しくなる時代が来ます。なぜ、何のために自分は学ぶのかを問うことが、ますます大切になる(木村さん)」

木村さんは、これから「まちなか鳳雛塾」を、生徒たちが幅広い視野や視点を持って論理的に考える力を養う場にもしていきたいと考えています。

一方、輪島市出身の山元さんは、生徒たちと歳も近く、お兄さんのような存在。
「大人になったら忘れてしまうことがたくさんある。立ち止まったり、悩んだりしている生徒がいたら、同じ目線で考えてあげたい(山元さん)」

塾講師
山元さんは輪島市出身。高校生のときに熊野さんが教える塾に通っていたことが縁で、東京の大学卒業後、この仕事に参加することに。

「自分が読んで面白かった本を持参し、さりげなく本棚に並べるんです」と山元さん。生徒たちが様々なことに興味をもち、自分自身について考えるチャンスを与えられたら、と笑顔で話してくれました。

「ブーメラン人財」を育てる狙い

現在、新たな取り組みとして「まちなかゼミ」をスタートさせた「まちなか鳳雛塾」。
普段の教科学習から少し離れて、論理的に考え、適切な選択や判断をする力や、コミュニケーション力を育み、幅広くグローバルな視野・視点を身につけるために始まりました。地域の課題と向き合いながら、課題解決型学習を行うための基礎となる学びです。

まちなかゼミ

能登町で課題解決型学習を行う狙いとは——?
「能登町の高校生には、地域の課題を理解した上で、金沢や他県の上級学校に進学してほしいんです。そこでもっと知識を吸収し、経験を積んで、能登が抱える問題を自ら解決したいという想いを持って、能登やそれ以外の地域で、生まれ育った地域のために活躍する”ブーメラン人財”として育ってほしいと思っています(木村さん)」

木村さんと山元さんをはじめ、「まちなか鳳雛塾」に関わるみなさんは、常に子どもたちや能登町のずっと先の未来のことを視野に入れています。柔軟に進化し続ける「まちなか鳳雛塾」では、現在、新しい仲間を募集中。教育現場の経験がなくても、子どもが好き、子どもたちの未来に役立つ力を育てたいという方に、一緒に働いてほしいと考えています。

これからの地域を担う人材の育成のため、さまざまな学びのかたち作りにチャレンジしている「能登高校魅力化プロジェクト・まちなか鳳雛塾」。これからどんな試みが生まれていくのでしょうか?ますます目が離せません!