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100年先でもない、すべては200年先の農業のために

ishikawa

知恵をしぼり個性を放つ、石川県の農家


霊峰白山からは性質のいい水が流れる独特の自然環境の下、山間部から海沿いにかけて広い地域に水田が広がります。農業法人や大規模経営農家が比較的多いのが石川県の稲作農業の特徴の一つです。石川県の農業組織「アグリファンド石川」の会長職を10年間勤めた、林農産の林浩陽さんを訪ねました。

「石川県の農家は自立心が強く、みな自らアイディアを出し特徴的な農業をやっています」

「かつて加賀は一向衆というお百姓さんたちが100年間、自治区を築き「百姓の持ちたる国」と呼ばれていました。石川県に特異な農家が多いのは、その遺伝子が代々に渡り、組み込まれているからかもしれないですね」と林さん。また県南部の加賀地域では、江戸時代から作られている加賀野菜、北部の能登地域にかけて作られる能登野菜、イタリアンレストラン向け野菜や羽咋市の神子原米など、特色ある農業が営まれています。元気な農家は商品に付加価値をつけ売ることでも個性を発揮しています。

林農産お米

林さんもメインの商品であるお米とお餅。自慢の商品が「普通じゃないコシヒカリ」「普通のコシヒカリ」など、ユニークなネーミングで実店舗とWEBショップに並びます。栽培する銘柄は農薬使用を1〜2回に使用を控えた「超!普通じゃないコシヒカリ」は紙マルチによる完全無農薬栽培です。
さらに「宇宙米」に至っては無農薬・無肥料で育てた自然栽培米。これは羽咋市で「ローマ法王にお米を食べさせたスーパー公務員」で有名な高野誠鮮さんが開催する自然栽培塾で、「奇跡のリンゴ」で有名な木村秋則さんに学びながら試行錯誤の末作り上げました。

林さんの宇宙米

「うちの経営理念は農業を通じて豊かな生活を創造するのだから、農業にまつわるいろんな要素を集めていくと幸せな生活が演出出来るんじゃないかと思って、商品開発もいろいろしているんですよ。そういうことは周りの農家との相乗効果にもなるし、新規就農者も入ってくれます」

売れる百姓とは?石川県に農業の黎明期があった


「農家っていうのがコンセプトなきモノづくりだったんですよ。当時は」

林さんが農業を始めた今から30年以上前のことです。家業を継ぎ就農する前は、なんと工業デザイナーだった林さん。〝米づくりも同じモノづくり〟と思って始めたのですが、モノづくりの概念も、経営理念も無く、その上、多額の借金…モノづくりとはほど遠い世界だったそうです。しかし、農業の法人化が追い風になり、農業界も変わり始めます。林さんに新たな農業を描く発想が次々と生まれました。自らが「農家と消費者のグランドキャニオンに架ける橋」になることを目指し邁進してきたそうです。

若手農家たちが集まり経営の勉強を学び合い「石川県の農業を変えていこう!」という情熱は連鎖し仲間は次第に増えていきます。そこには県庁の職員も参加しました。「だれもオブザーバーではなく、みんなで石川県の農業をなんとかしよう。全員が主役の勉強会だ」と、県内の農業関係者は一致団結しました。その勉強会のひとつが会長を務めていた「アグリファンド石川」です。通称「借金友の会」「補助金に頼るのではなく、制度融資を受けて、経営計画を立てられる農家になり、ちゃんと借りてちゃんと返す農家」をモットーに、この考えに賛同する農家たちが集結しました。既存の多くの農業組織の中でも「アグリファンド石川」ほど異彩を放つ組織は他になく、生活者の目線に立ってマーケティングすることを徹底しました。農業情勢が厳しくとも、経営基本理念があり、それに向かっている農家は生き残ると林さんは断言します。

林さん

林農産お持ち

そんな林さんの経営面積は40ヘクタール。金沢市のベッドタウンの中、コンビニやコーヒーチェーン店の裏などに小さな田んぼが600点も在し、いわば農業不適地なのです。道の狭さ、水や草刈りの管理に苦労します。けれど林さんは都市部の中で残された田んぼを守るためにこの場所に拘る。農業に適している場所が成功できるとは限らない。不適地であっても知恵とアイディアを出し、マーケティングすれば収益が上がると教えてくれます。

「農を育む、農家への道」


石川県には新規就農者をフォローしてくれるシステムがあり、農業をしやすい環境が整っています。「耕稼塾」や「農業総合人材支援機構」というシステムは林さんが20代の頃に共に学びあった県の職員の方がつくったものです。県内の若い就農者たちはそういう所のスキルアップセミナーやマーケティングセミナー、支援システムで勉強ができます。

「農業を始めるなら、MHK。もらう・ひらう・かりる、です。支援を受けて勉強する。新規就農者の先輩もたくさんいるのでいろいろ勉強させてもらえますよ」

林さんのところには、他県から来ている就農を志す若者がいます。「彼らは僕らとは発想や考え方が全然違いますし、勉強してきてるから相乗効果ですごくよくなります」農家を取り巻く社会環境は厳しいとされながらも、明るく楽しく全てが前向きに農業をする林さん。他の石川県の仲間の農家も、林さん同様に作物に対するこだわり、ネット通販の展開、地域社会との積極的な交流、人材の育成、食育活動と一人一人の語る活動範囲がとても広い。

命をつないでいくために農業はあります。200年先のことを考えて農業を志す林さんや石川県の農家のみなさんは日本の豊かな社会と環境を担っています。

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