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能登の里山にある細川農園

能登の建ちもの90年


石川県志賀町にある細川農園の三代目細川宗宏さんは現在63歳。細川さんの家は天井からは大きな鍵の手が下がり囲炉裏のなごりがある能登の建ちもの。建ってから90年家族と共に過ごしてきた家です。ここ志賀町での暮らしの良さを話す細川さんも、中学時代には知り合いとか親せきばかりの暮らしが疎ましくなり卒業してすぐ石川を離れたそうです。県外で過ごし22歳の頃に志賀町に戻ってからはずっとここで暮らしています。



細川さんの家は昔から柿を作っていましたが、柿を換金作物として扱うようになったのは昭和初期頃からだったそうです。稲刈りが済んだら出稼ぎか炭焼きしかなかった時代に志賀町では柿の生産や加工が定着していきました。柿のシーズンになると枯露柿(ころがき)をつくるために1ケ月間ほど毎日柿の皮をむくので、道具も手も渋色になってしまいます。指紋の中に入ったら真っ黒になるので、お風呂が渋の色になってしまうほど。「渋はきたないものと想っていたけど、紙を柿渋で染めると1回染はキレイなピンク色で、複数回塗るとレザーのような色にもなるんです。」と細川さんの奥さんが教えてくれます。渋染めは画用紙のような紙をしわくちゃにして大きな刷毛で柿渋を塗ることで味がある仕上がりになります。

志賀町の風土がうみだす枯露柿





細川農園の枯露柿には、最勝と平核無(ひらたねなし)という柿が使われています。二品種とも渋柿ですが、11月初めころに赤く熟したものを収穫し、皮をむいて干します。冬の冷たい風に2週間ほど干している間に渋味が抜け、そのまま干し続けて6割ほどに乾いた頃手もみをしてさらに干して仕上げたものが枯露柿です。枯露柿は、干すことによって水分が少なくなり表面が乾燥していきますが、ほどよいやわらかさが内側に残ります。枯露柿は昔から伝わる身近な保存食品ですので、皮をむいてスライスして干したり、皮をむいて渋みが抜けた段階で、手もみをしないでそのまま冷凍保存する方法もあります。



また、食べるだけでなく、渋の青い実を絞ってつくる柿渋は防水、防虫、防腐などの効果があることから、紙や布、竹かごに塗ったり、建築木材や漁業の網になどにも幅広く使われています。柿渋染めの中でも柿渋を和紙に塗っての「うなぎ染」という濃い茶色に染める方法が細川さんのオススメ。柿渋で染めた和紙を夏敷いて寝ると寝心地がよいそうです。柿は奥が深いのでこれからもいろんなことを試してみたいといいます。細川さんは、日本で柿について研究されている高名な大学の先生にも、自分でつくった資料をみてもらったりして、柿の歴史や効能など間違った理解をしていないかを確かめながら、学問的にも間違いのないことを確認して言うようにしているそうです。そんなお話からも細川さんの柿への思いがうかがえます。





「柿は、最勝と平核無を使っているが、たとえば平核無は日本中にあるけど、ここで作ったものは最高においしくなるので、ここの気候が一番合っていると思う、地の利ですね。」と細川さん。



能登の気候と能登の人の丁寧で辛抱強い手業が枯露柿つくりに合っていて、おいしいものがつくれる。「天気に合わせて動き丁寧に作業をする」常に自然と共にあるということを大切にしています。お客様に届けるときには柿をたてよこななめの色や形を合わせ1つの作品のように箱に入れるなど販売方法にもこだわりがあります。石川県の柿生産量は他県に比べて少ないですがお客様に喜んでいただけるようにこだわるということを大切に続けています。そこまでしなくてもいいのでは?と他人が思うことをこだわるのが、石川県民の気質なのかもしれないと細川さんはいいます。

石川県での暮らし


「石川で住もうと思ったり、仕事をしようと思う人は、まずは一歩踏み込んでみてほしい。地域には必ず、前から手を引っ張ってくれる人や後ろから押してくれる人、ましてやそこで生活しようとすれば、横から支えてくれる人までいる。地域ぐるみで育てようという気持ちがある人が多い。IターンでもUターンでもなんでも来てくれればうれしいし面白い。それを面白がっている土壌がある間にきてほしい。これからずっと先になって、もう自分が介護しか用のないときに来てもらっても、楽しさを伝えられないかもしれないから」と細川さんは笑いながらいいます。

地域は育ててくれるかわりに、地域のためにやらないといけないことも多い。家族に育ててもらったら、理屈抜きに家族を支えないといけないのと同じ。困ったときに相談できる人を見つけておくことも大切です。田舎は24時間一緒だと思ったほうがいい。移住とはそういうこと。来てくれた人を優しく迎えるのが田舎暮らしなのです。



「ほかの地方の方からみたら能登イコール海なんだって、わたしの住んでいるとこは山だと思っていたけど、能登半島は実際、福井側の西の海に行くのに10分かからず、富山側の東の海に行くのに15分ほど、ここ志賀町は能登半島の一番狭いところ」。と細川さん。そんな立地のおかげもあり、能登の食は海山混在していて、海山の美味しいものが手に入る魅力的な場所です。ここ石川での暮らしをはじめたら、相談しやすい細川さんのような人を見つけることが、選んだその場所で長く暮らすための最初の1歩となりそうです。
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